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2024

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2014

0511


 こんなこと書いている場合じゃないんですけれど(手の故障という点で)、どうしても書きたくて我慢できなくなったのでガシガシ書くこの記事。

 ちょっと調べたいことがあったので、部屋の本棚にあるグリム童話(岩波文庫版、金田鬼一訳、第四巻)を抜き出してめくっていたんですが、ふと目に留まったこのお話。


 「ガラスのひつぎ」(183話、私の持っている版では245ページからです)

 ちょ、ちょっと聞いてくださいよこの話……! いろいろ盛り沢山すぎてどうしよう><と思ってるんですけど、余程お時間ある方のみお付き合い下さい(笑) ようするに、ひたすらツッコミ入れるだけの記事です。




 物語の主人公は仕立て屋さん。「みっちりきたられて」「おとなしい、それでいてすばしこい」仕立て屋さんだそうですが、結局、この設定は最後までどうでもいいことを最初に言っておきます。とりあえず、主人公がこの人だと分かればそれでいい、程度の取ってつけ感。


 修業の旅に出て、どこかの森に彷徨いこむ仕立て屋さん。「路をしらないので、まいごになりました」 無謀だな! 

「どこか寝る場所をさがさなくてはなりません。ふわりとした苔の上ならば、もうしぶんのないねどこにきまってます、けれども、地べたでは、いろいろのけだものがおそろしくて、安心してやすめません」

 いまどきの苔好き女子の心をくすぐるフレーズを挟みつつ、

「あかりにひかれてたどりついたところは、葭(よし)と燈心草であんである、ちいさなちいさな家でした」

 素敵です。そんな家があったらとりあえず愛でたい。

 戸を叩くと、「氷のような色をした小人のお爺さんで、雑巾のようないろんなぼろ布を継ぎあわせた服を着ている」人が出てきます。氷のような色って、なんかあまり見ないパターンのような気がします。かっこいい。

 仕立て屋さんが、一晩の宿を請うのですが、にべもなく断られます。そりゃそうだよ……人間サイズで踏み荒らされることを考えれば。
 ところがこの仕立て屋さん、諦めない。小人の上着の裾をしっかり掴んで、散々頼み込みます。なぜそこまで食い付く。
 気の毒に、「爺さんも、見かけほど意地の悪い男ではなく、おしまいには我を折って」シャチのように食い付かれましたからね!「自分の小屋につれこむと、食べるものをくれてから、部屋のすみのたいへん上等なねどこをあてがってくれました」 縮尺はどうなったんだ。そして、私は、この小人のお爺さんが気の毒でなりません。


 そして、ここでお爺さんの出番終了のお知らせ。なぜかこの後、一切登場しません。この小人に対していいことをして、そのお礼に幸運が舞い込む、とかなら分かるんですが、そういうことも一切ない。単に迷惑かけただけです。
 とにかく、夜中に仕立て屋さんが目を覚ますと、外で大きな牡牛と牡鹿が戦っています。ここでどっちかを助けるか! などという話には全くならず、仕立て屋さんが呆然と見ているうちに鹿が勝ちます。
 怯えて身動きもできないでいる仕立て屋さんを、鹿が突然角で突き刺して、むちゃくちゃに走り出す。「まるで、フォークで肉のきれをさすように」って書いてあるんですけど、これ、おおごとじゃないですか。死ぬ。絶対死ぬ。

「そのうちに、牡鹿はやっとのことで壁のような岩の前に立ちどまって、仕立てやさんを、やんわりと地べたにおとしてやりました。」

 やんわり、というか、もう、私の脳裏には血なまぐさい情景しか描かれないんですけど、大丈夫ですか。本当に。

 ところが、仕立て屋さんは全然大丈夫らしい。冒頭に、「みっちりきたえられて」と書いてあるのはここの伏線なんですね(たぶん) だったら、仕立て屋でなくてもいいじゃん……などと言ってはいけない。いくら思っても。

「牡鹿は、岩についている扉を角で力まかせに突きました」

 突然出てくるこの扉。好きですよこういうの! 遺跡かダンジョンっぽい。ちょっときゅんときた!

 そこで牡鹿はいなくなり、仕立て屋さんは「鉄のとびらをくぐって、いかにもひろびろとした大広間へととおりました。」


 この大広間の情景描写がすごいのですよ。


「その天井と壁と床は、ぴかぴかに磨ぎだしたまっ四角な石でこしらえてあって、その石の一つ一つに、なんのことだかわからない標識(しるし)が彫りつけてありました」


 SFだ! 突然SFが始まった!
 確かこんな場所、某ラピュタで見た記憶が。


「この広間のまんなかの石を踏んでごらん」と、得体の知れない声が言います(この声、最後まで正体が分からなかった)
 そのとおりにすると、


「石は足の下でぐらつきだして、ゆっくりゆっくり、下へ下へと降りて行きます。それがぴたりととまったところで、あたりを見まわすと、自分のからだはさきほどのとおなじ大きさの広間のうちにありました」
「壁には、ほうぼうに凹所(くぼみ)が切りこんであって、その中に、色のついたアルコール性の液体や、うす青い煙のいっぱいつまってる透きとおったガラスの器が、いくつもいくつも置いてありました」


 何この素敵描写。
 なんで見ただけでアルコール性だと分かったのか、ちょっと事情通の方にお尋ねしたいところですが、とりあえず、まだまだ続く。


「広間のゆかの上に大きなガラス箱が二つ、むかいあいに置いてあるのが目にはいると、気になったので、すぐ、その一つのところへ行ってみましたら、そのなかには、りっぱな建物が見えました。お城のようなもので、事務をとるお役所だの、厩舎だの、穀倉だの、そのほか、こういったいろいろなものにとりまかれています。どれもこれも、そろって小さくはありますが、まことに丹念な、こまかい細工で、よほどうでのいい人が、実物と寸分ちがわないように彫りあげたものとおもわれました。」


 ここの描写だけで、私の中で殿堂入りです。何の殿堂だか知らないが。この話で一番好きな部分です。


 反対側のガラス箱の中には、美人が眠っています。「ぜいたくな外套にくるまってでもいるように、長い黄金いろのかみの毛にすっぽりくるまっています」というので、裸なんでしょうね……こういうとき、グリム童話は大抵裸ですしね。でも、「リボンは息がかかってあっちこっちへ動いている」というので、リボンはしているらしいです。微妙に不可解だ。

 仕立て屋さんが見ていると、娘は突然目を覚まして、喜んで、早くガラスの柩の閂を抜いてくれるよう頼みます。仕立て屋さんがそうすると、娘は自分で蓋を持ち上げて出てきて、外套を身に纏い、仕立て屋さんに感謝のキスをします。その歓喜っぷりがすごくて、
「あなたこそ、わたくしが永いこと待ちこがれていた救いの主」「あなたこそ神さまのおぼしめしによるわたくしの殿御」「わたくしのおささげもうす愛情にひたり、山と積まれたありとあらゆる現世のおたからのなかにうずまって、なにひとつこの満悦(よろこび)のじゃまをいたすものはなく」とか、もう語りまくります。……えっと、改めて振り返りますが、仕立て屋さんは閂を抜いただけですよ。しかも、「抜け」と言われたから抜いただけで、自分で考えてやったわけでもなく。蓋を開けてあげることもせず、外套を着せかけることもしてません。基本見てるだけ。


 そして、娘の身の上話が始まります。
 なんでも、裕福な伯爵の娘で、両親は子供の頃に亡くなっているとのこと。兄がいて、

「わたくしども兄妹は、それはそれは仲よしで、もののかんがえかたも同じ、好ききらいもおなじ、ふたりとも結婚しないで、死ぬまでいっしょにくらそうと心をきめたぐらいでございました」


 た、たいへんだ~!


 しかし、問題は重度のブラコン・シスコン設定そのものではないのであります。問題はその先です。


 ある晩、見知らぬ人が馬でやってきて、一晩泊めてくれと頼みます。兄妹は喜んで彼を泊め、客は夕食の間中、いろんな物語をして二人を楽しませます。これぞ、客のあるべき姿。紳士ですね! どこかの慎ましい小さな小さなおうちに押しかけて、気の毒なお爺さんを困らせて泊まり込んだうえ、何もお礼をしないで眠りこけていた約一名とは……いや、そんな嫌味を言っている場合ではない。

「兄はそのかたがたいへん好きになりまして、二、三日わたくしどもに足をとめるようにおねがいしましたら、はじめは、こまる、こまる、とおっしゃってでしたが、それでもこちらの言うなりになりました」

 ところがその夜、この紳士は早速、妹の部屋に夜這いに来ます。
 厳重な鍵のかかった扉を魔法で通り抜けてくるというのがどうにも、犯罪者の香りがぷんぷんしてますが、それなりにちゃんと求婚の言葉を口にして、返事を待ちます。それに対する妹の反応「わたくしは、その人の魔法魔法ともうすのが癪にさわってなりませんので、一言も返事をいたしませんでした」

 なんでだ。

 魔法差別いけない、いや違った、確かに犯罪的な魔法なので怒るのも仕方ないかもしれませんが、「兄妹の好き嫌いは同じ」で、「兄が大層好きになった」相手なんですよ。
 何もしない漁夫の利仕立て屋さんと比べてどうなんですか、これ。いや、賛否は分かれると思いますが。でも、せめてお断りの文句ぐらい言ってあげてもいいんじゃないですか。

 翌朝、兄と客人が連れ立って狩りに出かけたというので、胸騒ぎがした妹は、馬で追いかけます。しばらくすると、客人が見事な牡鹿を引っ張ってやってくるのが見えました。その鹿をどこで手に入れたのか訊ねても答えず、大声をあげて笑い出したので、

「わらわれたので、わたくしは、むかむかっとして、ピストルをだしてその怪物をねらいうちにいたしました」

 ……!!!


 怖いよこの人!


 グリム童話というより、メロドラマの世界に生きてる人にしか許されないような直情的殺人ですよ。殺してないけど。

 で、結局、魔法でガラスの柩に閉じ込められ、お城も全部小さくして仕舞い込まれてしまいます。

「わたくしがその時その男ののぞみどおりになりさえすれば、それをのこらずもとの形にかえすのは造作もないこと、いれものををあけさえすれば、みんな生まれつきのすがたに戻るのだとも申しました」
 ぺらぺら喋りすぎです。
「わたくしは、最初のときとおなじように、なんとも返事をいたしませんでした」


 ……なんていうか、このツンツンっぷりに違和感を感じるのは、仕立て屋さんに対する態度と違いすぎるからです。なるほど、これが……主人公補正というものか……!
 しかし、仕立て屋さんにあそこまで入れあげるなら、ブラコン設定は何のためにあったんだ。こういう意味のない中途半端なブラコン設定ダメ。ゼッタイ。結婚しないで一生二人で暮らそうとか言ってたんだから、そのまま貫き通して下さいよ。


 とりあえず、このお嬢に「わたくしのやしきのはいっておりますガラスばこを、あの幅のひろい石の上にのせる」ように言われて、仕立て屋さんはそのとおりにします。


「石は、重みがかかると、お姫さまとわかい男の人(注:仕立て屋さん)をいっしょにのせたまんま、すうっともちあがって、天井の穴をとおりぬけて、上の広間へせりあがったものです。ここからは、わけもなく青空の下へ出られました。お姫さまは、ふたをあけました。そうすると、お城だの、住宅だの、ほかのいろいろな建物がぐんぐん伸びてきて、おそろしい速度で自然の大きさになるありさまは、まったく不思議なみせものでありました。」


 ……こういう描写を堪能するために、私、この話を読んでる……! と実感する部分であります。

 ブラコンとかシスコンとかヤンデレとかstkとか拉致監禁とか鉄砲玉飛び交うメロドラマとか、そういうものを読みたかったわけじゃないんだ。たぶん。そこはかとなく漂うミニチュア萌え・SF設定・ファンタジー世界を味わいたかったんです。


 で、牡牛=魔法使い、で、それを倒した牡鹿=兄、がそこに帰ってきて(あれ、お兄様は自力で助かったのか……ますます仕立て屋さんの存在意義が)、その日のうちに、仕立て屋さんは妹と結婚します。「その日のうちに」というのが、もう全力でお嬢が迫ってる感じがしますね(仕立て屋さんは流されてるだけに決まっている)。めでたしめでたし。


 ……何度でも繰り返しますが、仕立て屋さんは言われて閂を開けただけですよ。そしたら、ブラコンでツンツンな性格で、たまに鉄砲ぶっ放したりする美人が、なぜだか分からないけれどめろめろになって結婚を迫ってきたわけです。これはどういうことなんだと。

 もしかしたら、兄に任せておけば魔法使いが倒されて、自然と全員助かったんじゃないかと思うんですが、早計なのか。彼には閂が開けられなかったとしても、「有難う、人の手を借りられてよかったよ」と、仕立て屋さんにちょっとした褒美をやって帰せばいいじゃないですか。とにかく、「何もしてないじゃないか!」というに尽きる。あと、仕立て屋である意味を誰か教えてくれ。


 ……と唸りつつ、キャラ設定は破綻しているが描写はすごい……萌えの塊でありました。何度も読み返しているはずのグリム童話ですが、これまで全然気付いていなかった……! という新たな感動を伝えたくて書き始めたのですが、登場人物にひたすらツッコミしか入れていなかったような気もする。けど、気のせいだということにしときます。
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